デジタルコンストラクションの人材育成:
グレッグ・ベントレー氏との質疑応答

| インタビュー

道路、橋梁、建物物など、我々の生活を支えるインフラの多くは、その設計や試験においてますます高度な技術が導入されている。ソフトウェア開発会社であるBentley Systemsは、アブダビ国際空港やロンドンのザ・シャードなど、世界で最も複雑な建築開発に、デジタルツールやサービスを提供してきた。そうした背景から、同社はエンジニアやアーキテクトからITマネジャー、オーナーやオペレーターに至るまで、インフラ業界がデジタル時代を迎え成長していく過程で直面する課題を熟知している。本インタビューでは、Bentley SystemsのCEOグレッグ・ベントレー氏に、この業界が必要とするスキル、(デジタルツイン、4D測量、クラウドサービスなど)適用可能な新テクノロジー、デジタルリテラシーの向上に関して経営陣が果たすべき役割について、話を伺った。 

マッキンゼー:今日の建設業界の労働力は、どういった状況か。

ベントレー氏:人口動態の変化に伴ってインフラプロジェクトのデリバリーに懸念が生じるのは当然のことだ。ある試算によると、2008年の資本市場の大混乱の後、緊縮財政とプロジェクト数の減少によって建設業の労働力は40%減少したという1。労働者は、建設業の大きな特徴であるこの習慣的な景気循環から逃れたいと考えていたに違いない。また、若い労働者を獲得できていないという人口統計学的な傾向もある。今日、建設業における25歳以下の労働者の割合は現在10%未満で、以前よりはるかに低い。2この人口構成的問題によってすでにキャパシティの制約も生じつつあり、業界が変わらなければさらに悪化するであろうことは、誰もが認識するところだ。

しかし、明るい兆しもある。インフラプロジェクトのデリバリーに要する人材の量的・質的なスキル不足に対し、説得力のある解決策となるのが「デジタルへの移行」だ。 デジタル化は、インフラや建設の専門家の供給が限られる中で彼らの生産性を高めると同時に、仕事そのもの性質や魅力が刷新され若い新しい人材(デジタル・ネイティブ)を惹きつける、という2つの利点がある。このように、デジタル化は好循環を生むのだ。

マッキンゼー:デジタル化は、業界のスキルニーズに対しどのような意味合いを持つのか。

ベントレー氏:デジタル化は、インフラデリバリーの産業化の鍵となる。従来のアナログプロセスを自動化されたデジタルワークフローに転換すること、すなわちテンプレート化、複製、拡張、そしてプロジェクトライフサイクル全体や複数分野にまたがる情報モビリティでつながることによって、製造業に追いつくことができるだろう。これを意味する言葉として、私たちは例えば「4Dプロジェクト・デジタルツイン」という言葉を用いて「コンストラクショニアリング」を推進している。 ここでは、建設技師と施工業者の仕事は、別々に振り分け順序付けるのではなく、反復的、没入的、かつインタラクティブに行われる。モジュール化とオートメーションを最大限に活用するには、両者がプロジェクトのモデリングとシミュレーションを共同で行う必要がある。

インフラプロジェクトのデリバリー、特に建設業界では、基本的に4Dを活用する。よって、新しいスキルとしてモデル、データ、デジタルダッシュボードを使いこなすことが求められる。ドローンやデジタル画像による4D測量をクラウドサービスで仮想的に連携し、またデジタルツインとエンジニアのバーチャルツインを段階的に比較することで機械学習が可能となる。

建設技師と施工業者は、機械志向が強いため自然と適応しやすく、これまで「ダークデータ」とされていたデータも直感的で没入感のある可視化を通じて分析されるようになり、機械学習の適用にますます熟達していくだろう。このようなスキル伝承のプロセスから、これからのプロジェクトチームは、特定分野のスペシャリストよりもジェネラリストの役割が大きくなると見て間違いないだろう。ただし、少なくともある程度のコーディングやビジネスインテリジェンスのセンスがある人は有利となる。

マッキンゼー:業界においてコンストラクショニアリングに必要なスキルを特定し、開発するにはどうすればよいか。

ベントレー氏:私の勘どおり、幸いなことに、新興国には、4Dモデリングを扱うスキルを持つ人材がすでに存在しているようだ。しかし今日では、コンピュータゲームに魅了されている多くの若者や、他産業関連の目的でアニメーション環境を構築している人々の中からそういった人材を見つけることが必要かもしれない。バーチャルな世界ではなく、物理的なインフラで仕事をしてもらえばよいのだ。例えば、ゲーム愛好家が当たり前のように使っているデジタルビジュアライゼーションの種類について考えてみよう。数年前、マイクロソフトの初代HoloLensは主にゲーム機器として評価されていたが、現在ではHoloLens 2がインフラのデジタルツインにも転用可能な、産業規模の可能性を秘めた産業グレードツールとして認識されている。

我々はこのような、ジェネラリストとしての能力、可視化能力、定量的気質、目的意識と行動力を兼ね備えた若い人たちに、インフラ関連の専門職についてもっと知ってもらい、魅力をアピールしていかなくてはならない。建設やエンジニアリングは、日常とはかけ離れた、興味深くてやりがいのある仕事だ。そして分析、クリエイティブなデータ活用の構想、(機械学習型の)商用ツールを使った制作などにもともと興味がある人には、非常に適した仕事といえよう。

我々のようなセクターで労働者の勧誘が語られるとき、当然のことながら、「今ある仕事が将来はロボットに奪われるのではないか」という質問が予想される。そこで、土木工事ではすでにロボティクスが使われていることを指摘したい。新設道路の多くでは、コンストラクショニアの4Dモデルによる機械制御のショベルカーやグレーダーが、そこを最初に自律走行する車両なのだ。ロボティクスによって工事の条件、予測性、安全性が向上し、効率性や経済性も大幅に改善され、より多くの工事を受注できるようになる。オートメーションによってE&Cの専門家の仕事が奪われることはなく、むしろより安全でやりがいのある仕事に恵まれるだろう。

マッキンゼー:経営陣はデジタルリテラシーの向上に関して、何ができるか。

ベントレー氏:インフラプロジェクトの実行チームは、デジタルリテラシーの向上について意識を新たにし、熱意を持って取り組むべきだ。私にとっての指標は、テクノロジーを従来の成果物を生み出すための追加経費と捉えるのか、それとも、労働力不足や危険な作業を最小限に抑え、仕事の質を向上させ、より多くのプロジェクトを実行可能にし、より有利で継続的な仕事を勝ち取るための答えとみなしているか、ということだ。私の経験上、インフラのCEOは一般的にデジタル化を魅力的な機会と認識しているものの、組織内の運用構造が柔軟性に乏しいせいでそのビジョンが妨げられることが少なくない。

個人的には、経営陣が、デジタル化について一回限りの「変革」の押し付けではなく、ワークフローの接続性やオートメーションを(基本的に自己資金で)徐々に有用なレベルまで高めていく漸進的プロセスと捉えることが望ましいと考える。インフラエンジニアリングのリーダーたちは、デジタルツインによって従来のビジネスモデルを改善できること、上述のようなスキル不足に対する脆弱性を軽減できることを、積極的かつ自信を持って受容すべきだ。

私自身は、インフラプロジェクトを提供する組織がデジタル技術で未来を切り開く意欲があるか否かを見極める際、研究開発への明確な投資を行っているかどうかで判断している。これはE&Cがソフトウェア事業に参入すべき、という話ではなく、「サービスとしてのインフラ」という価値ある成果物を目指して、知的財産を創造し、資産化すべきということだ。

マッキンゼー:業界レベルでデジタル化を推進するために、官民の団体ができる具体的なアクションとは。

ベントレー氏:「徒弟制度」の提唱や全面的な採用から取り組むのがよいと思う。ここ数年、英国では、官民イニシアチブ締結の先導的役割としてNational College for High Speed Railを創設し、デジタル化の発展を実践的に指導している。Bentley Systemsはこのカレッジプログラムのスポンサーの一社として、卒業生が4D測量をはじめとするデジタルツールやワークフローの知識を将来のプロジェクトに活かしてくれることを期待している。

ソフトウェア面では、我々がインフラのプロフェッショナルに対してツールだけでなくそれを支える機械学習環境も提供することで、業界により広く貢献するとともに、デジタル化における個々人の継続的なスキルアップにも寄与する。現状ではインフラのプロジェクトデリバリーのスキルギャップが拡大しているが、我々が適切なデジタル・ネイティブを惹きつけ、力づけることがギャップ解消にもつながる。最終的に、我々がここで立て直すことができれば、持続可能なスキルの優位性を後の世代に継承できるかもしれない。

タイトル部分の画像はBentley Systems社の提供

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