コロナ禍におけるインフラ入札

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資本プロジェクトの入札では、工事の開始日、利用可能なサプライヤー、材料費、労働生産性などについて、一定の仮定に依存せざるを得ない。ところがパンデミックによって、そうした仮説を立てるための公式の多くを一旦忘れなくてはならなくなった。サプライチェーンの寸断、就業規則の変化に直面するなかで、業界は不確実性を抱えながらもどうにか堪えるしかない。

官民双方のインフラプロジェクトオーナーがプロジェクトパイプラインを再検討するなか、入札競争が激化している1Resetting capital spending in the wake of COVID-19,” June 25, 2020, McKinsey.com.。多くのエンジニアリング・建設企業(E&C)は、キャッシュフローとバックログを維持すべく一定数の案件を常に必要としているため、コロナ前よりも多くのプロジェクト入札に参加し、原価割れするほど大幅に価格を下げた見積りを提出するケースも散見される。オーナーも当初は競争による価格下落に惑わされる可能性があり、注意が必要である。

E&Cは入札におけるディスラプションを予測する

2020年9月に実施したE&C企業への業種・地域横断的調査では、「入札への取り組み方を変えた」とした回答企業は89%に上った。取り組み方を変更した企業の半数以上は代替的な契約方法を積極的に検討していると回答し、また3分の1が価格設定のアプローチを変更したと認めている。また、回答企業の82%が「競合の増加や原価割れに近い異常な低価格設定など、競争の性質が変化している」と回答していることから、上述の変化は、価格競争への対応であると推測される。ある回答企業は、「競合はキャッシュフローと事業継続に躍起になるあまり、低価格で入札している」と指摘した。

今日の厳しい状況下でも工事を継続したいと願うオーナー、特に救済措置で資本注入を受けた公共インフラのオーナーにとって、こうした低価格競争は、経済が雇用やあらゆる形の成長に飢えている時にプロジェクトを完了させるうえで好ましい状況に聞こえるかもしれない。ある大都市交通機関の資本計画担当者は、5月以降、入札額が社内見積もりより30%も低くなっていると指摘する。しかし、こうした入札を受諾することは、中長期的にはオーナーが負担を強いられかねないリスクも孕んでいる。予算を下回る金額で発注できることはオーナーにとって一見喜ばしいのだが、一方でE&Cは、他の方法でプロジェクトの収益を回収しなくてはならない。それができなければE&Cは財政難に陥り、すでに進行中のプロジェクトにまで影響を及ぼす可能性が出てくる、そうなれば、結局オーナーも高いリスクに晒されるのである。

オーナーは何をすべきか

スキル、リスクテイク、財務力のバランスを備えた健全なE&Cや専門サービスプロバイダのプールを維持できれば、プロジェクトの長期的な実行可能性も高まる。ここでは、3つの有効な対策を紹介する。

価格からリスクへと、意思決定の重点をシフトする

つまり、オーナーは、過去のコスト実績や社内見積もりを大幅に下回る入札について、その安すぎる根拠を調査せず安易に受諾してはいけない。調査によると、入札者の中には従業員の雇用を維持できるよう受注残をできるだけ増やそうと、何が何でも落札することを優先する企業もあるようだ。しかし、そうした企業は結局、クレームや手抜き工事によって利益を上げるしかないため、プロジェクトに予期せぬリスクをもたらしかねない。

こうした状況に対応するには、オーナーも調達の方式を見直すとよい。価格は常に決定要因のひとつであり、一部のケースでは法的に要求される決定要因でもあるが、オーナーは請負業者の財務安全性やリスク管理計画に関する他の指標を基準としてベースラインを調整し、たとえ最安値の入札であってもポストパンデミックの環境におけるリスク軽減の妥当な基準内にあるか、確認するとよい。従来のように価格だけに左右されては、底辺で競争している業者と組むことになりかねない。

プロジェクトのみならず、エコシステムに関する条件も設定する

コラボラティブ契約、代替的なリスク共有モデル、高度なデジタルツールの使用など、E&C業界は新しい施行モデルへの適応に意欲を示しているが、こうした条件を要求するのは主にオーナー側である2Collaborative contracting: Moving from pilot to scale-up,” January 17, 2020, McKinsey.com. を参照のこと。先進的なデジタルツールについては、Maria João Ribeirinho, Jan Mischke, Gernot Strube, Erik Sjödin, Jose Luis Blanco, Rob Palter, Jonas Biörck, David Rockhill, and Timmy Andersson, “The next normal in construction: How disruption is reshaping the world’s largest ecosystem,” June 4, 2020, McKinsey.com.を参照してください。。 マッキンゼーの調査では、22社が代替的な契約モデルの検討により積極的であると回答している。ある回答者は「コラボラティブ契約やパートナリングの仕組みの必要性も聞かれる」とコメントした。しかし、上記はまだ実現には至っておらず、ほとんどの契約が固定価格一括払いで入札されているのが現状だという。 実際、伝統的に保守的なこの業界において、今日のプロジェクトの供給と需要の状況は、オーナー側が自らの利益のために入札要件を見直すきっかけとなり、さらには業界全体の利益にもつながる。

当該分野、職種、地域で実績のある請負業者を優遇する

アンケートでは、「請負業者は必要に迫られて新しい分野に手を出している」という回答も多かった。起業家文化が盛んな建設業界では、典型的なパイプラインが枯渇したとき、隣接分野に軸足を移すことは昔からよくある。しかし、データがほとんどない新しい業界や地域での価格設定モデルやサプライヤー関係、優先下請業者など、請負業者はいかにして適応するのだろうか。しかも、そのデータは、1年の大半が世界的なパンデミックという状況下で収集したものである。誠実なオーナーなら、一か八かで新規参入者を起用する前に、入札者の能力の程度を確かめつつ、リスク管理計画や適格なリーダーシップなど別のセクターでの実績を新しいセクターにも引き継げるのか立証したいところだろう。


コロナ危機が明けても、完全復活への道のりは長く険しいと予想される。連邦政府による実質的な景気刺激策の有無に関係なく、米国の各機関は国のインフラを見直し、より効率的でレジリエントな未来を創造するチャンスがある。米国は次世代のインフラを占う重要な時期に来ている。

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