ニューノーマルを見据えたインフラ
プロジェクトの選定

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政府や企業のリーダーはパンデミックの中で、当面の健康危機管理や市民・企業による緊急の財政ニーズに対応する一方で、経済回復を促す方法を模索している。多くのリーダーが、インフラを計画の中心に据えている。中国、EU、日本および米国はいずれもインフラ投資を主要素とする景気刺激策を発表している1。新たなインフラへの投資は、雇用を創出し、経済成長に直接的かつポジティブなインパクトを与える。とりわけ、差し迫った深刻な医療インフラのニーズにも対応できる。また、最新のテクノロジーを駆使した新しいインフラによって、交通渋滞や環境破壊に関連するコストを削減し、より効率的で安全、かつ低炭素なインフラソリューションへの移行が可能となる。

しかし、すべてのインフラプロジェクトが今すぐ着手可能で、雇用や経済に対する短中期的なインパクトを期待できるとは限らない。また、効率的かつ公平なサービス提供という観点から、優先するプロジェクトは人口の将来的ニーズに対応し、新しい設計ツールや技術を組み入れたものでなくてはならない。さらに、インフラ整備の予算が逼迫し、歳入の減少により予算が限られ、また希少資源を当面の医療・福祉ニーズに回さざるを得ないという状況の下で、政府はプロジェクトの優先順位付けに頭を悩ませることになる。

このような時こそ、短期的な景気回復を促すと同時に、利用可能な資金を最大限に活用できるインフラプロジェクトを政府が選択することが重要だ。具体的には、早期に着手可能(ショベルレディ)、かつ実行する価値(ショベルワージー)のあるプロジェクトに的を絞り、官民パートナーシップモデルを活用してインフラ整備に民間からの投資を呼び込めないか検討することができる。これが成功すると、どうなるか?マッキンゼーの分析によれば、米国内だけでも、潜在可能性の高い優先プロジェクトを選定して実施することで、800億ドルの投資を獲得し、200万人以上の新規雇用を創出できるという。

景気回復を促進し、民間資金を呼び込めるインフラプロジェクトの選定

政府は経済の活性化と民間資本の活用に重点を置くことで、最も魅力的なプロジェクト類型をいくつか見出すことができる。

経済回復の促進

インフラ整備による経済刺激策は、その多くが、効果が現れるまでに何年もかかるようなプロジェクトを扱っている。しかし、インフラで景気回復を促進するには、すぐにでも着工する必要がある。つまり、ショベルレディ(早期に着手可能)かつショベルワージー(実行価値のある)インフラプロジェクトを選定すべき、ということだ。既に計画済みの道路プロジェクトや、承認に時間の掛からない行政プロジェクトは、「ショベルレディ」とみなすことができるだろう。「ショベルワージー」の要件は、提案が緊急の経済的・社会的ニーズを満たすかどうかを問うことになる。例えば、多くの建設雇用を生み出すプロジェクトや、弱い立場の人々に長期的な接続性を提供するプロジェクトが優先される。

このように優先順位を設定すると、プロジェクト一般的に4つのカテゴリーに分類できる。

  • 交通局、都市建築局、公園局、水道局などが主導するプロジェクトをはじめ、すでに短期資本計画の一部となっているもの。 こうしたプロジェクトは必要性が認められており、計画も完了しているため、建設を早めることが可能だ。長年にわたって渋滞が問題となっており、その解決策がはっきりしている地方の橋や道路を改良し、キャパシティを拡大するプログラムなどは、その一例だ。
  • 既存の資産を「スマート化」するプロジェクト。 新しい技術や設計を取り入れることで、インフラの運用の仕方を大幅に改善し、コストや環境負荷を低減するプロジェクトを指す。例としてはエネルギー効率に優れた低コストのLED照明の設置、都市部の歩道や駐車場システムの再設計により配送、ライドシェア、歩行者や自転車の利用を可能にするプロジェクトが挙げられる。
  • モジュール化され、複製可能かつ分散型の性質を持つプロジェクト。 このタイプのプロジェクトは、経済発展を促進するための大規模なプログラムの一部として迅速かつ効率的に実施される場合に、最も効果を発揮する。また、設計が完了しており、サイト固有の設計の必要性が低いことが前提となる。例えば、実証済みかつ再現可能なエネルギー効率化技術を数百件の建物物に適用するエネルギー再利用プログラムは、上記の要件を満たし、数千人の人々にエネルギー消費やエネルギーコストの削減効果をもたらす。
  • 喫緊の安全衛生上のニーズに対応するプロジェクト。 COVID-19のパンデミックにより、ICUのベッド数や予防接種施設の不足、保冷剤のサプライチェーンの不備など、医療インフラの欠落が浮き彫りとなった。特に農村部や医療インフラが不十分な地域での病院の建設や拡張は、中期的なインフラ整備の目標に該当すると思われるが、幸いなことに、当面のニーズの多くは、迅速な改修やモジュール工事によって対応が可能だ。スタジアムや体育館を無菌ワクチンセンターとして使用可能にしたり、冷蔵倉庫のサプライチェーン・ユニットや車両を増やすことは、すぐに実現できる。こうしたプロジェクトは、雇用の拡大や中核インフラがもたらす経済成長といったプラス効果が多く、また同時に、最も差し迫ったニーズにも対応することができる。

民間からの投資を誘致

政府は、予算や景気対策資金が限られていることを考慮し、民間資本を呼び込むことによって実行できるインフラプロジェクトを優先することを検討してもよいだろう。2020年には、世界の投資会社トップ10が840億ドルのインフラ資金を調達したが、分配には至らなかった2。 その多くは長期的なインフラプロジェクトに充当され、パンデミックによる交通への影響にもかかわらず、投資家は依然としてブラウンフィールドとグリーンフィールドの両方のインフラ投資機会を模索している。したがって、政府は民間資本や景気刺激策の導入促進を選択することにより、喫緊のインフラ需要にも対応しやすくなる。

政府は、公共施設等運営権方式(コンセッション)の活用や、新たな運用・保守体制の構築を通じてインフラの運用・管理の一部を民間に委託できる。同時に、改修費用の支払義務も移管することができる。また、橋梁、道路、暗渠などのインフラ改修事業を一括して大規模な建設計画に組み入れ、民間企業に委託実施するなど、民間セクターを巻き込むことによって、政府はより早く、より少ない初期費用で、より多くのインフラ整備事業に着手できる。また、アベイラビリティ・ペイメント方式(A/P)を採用すれば、建設中にすべての支払期日が到来する従来の方式とは異なり、15~20年間の分割・延べ払いが可能となる。民間セクターへのリスク移転は、インフラサービスと社会的利益が明確で、透明かつ効率的な調達を通じて行われ、公平性や持続可能性を考慮したデリバリーをパートナーに約束する場合に、利益をもたらす。

5つのプロジェクト類型

5つのプロジェクト類型は、ショベルレディ、ショベルワージー、民間資本を呼び込める、という要件をすべて満たす。これは網羅的なリストではなく、あくまで政府や投資家が検討すべきプロジェクト種別の一例である。

  • 州交通改善プログラム(STIP)に基づく道路および橋梁の改良、運用、維持、またはキャパシティ向上。 例えば、ある道路の渋滞を解消して交通量を増やす場合、政府はコンセッション契約を締結し、管理車線やスマートテクノロジーの追加を民間企業が実施する。STIPのアップグレード事業は計画済みかつ優先順位の高いプロジェクトであり、新規のプロジェクトよりも早く完了できる可能性が高い。
  • STIPの道路・橋梁の一斉メンテナンスの実施。 保守プロジェクトは、短納期を可能にするシステムが備わっているケースが多い。また、多くの州政府は保守プロジェクトを優先的に実施するため、即景気を刺激する効果がある。
  • インフラのレジリエンス向上による洪水対策。 複製可能なグリーンインフラの導入により、洪水管理や排水の問題への対処が可能となる。これには、例えば地表を流れる雨水の管理策として造園や暗渠によるソリューションを導入したり、河川敷を公共の公園に造り変える、といった市のプログラムなどが含まれる。環境災害によって経済を悪化させないためには、(インフラの)レジリエンス向上が不可欠なのである。
  • 繁華街の歩道をマネタイズする。 駐車場の民営化や商業ゾーン、ライドシェアゾーンの設置は、渋滞の緩和や都市部道路の新たな使用法を促し、行政や市民にとって非常に大きな価値がある。
  • 政府資産への大規模投資により、市や州の未活用資産を開発する。 政府は、交通指向のプロジェクトの一環として、空き地を手頃な価格の住宅に開発することを検討できる。このアーキタイプでは、空き地のままだったであろう土地から政府の収入源を創出し、維持できる。

この5つの類型を全米に適用すれば、800億ドルの投資と最大200万人の雇用を創出することが可能だ。そして、それらのプロジェクトへの投資によって、米国内で700億~2,150億ドルのGDPインパクトが生まれる可能性がある。

各国政府はそれぞれ独自にインフラプロジェクトの優先順位を付けていると思われるが、このフレームワークは世界のどの国や地域にも適用が可能だ。その国や都市、地域の管轄区域にふさわしい規模の投資機会や雇用機会を創出することができる。

実行に移す

政府は、ショベルレディおよびショベルワージーなプロジェクトのポートフォリオの構築、新たな資金調達やパートナーシップモデルの検討に加えて、調達の加速化(短期的な雇用創出)とプログラムの規模拡大(調達とデリバリーにおける効率性の活用)を検討することができる。また、インフラの設計と導入のプロセスの各ステージでテクノロジーを組み込むことにより、プロセスを可能な限り効率的で将来性の高いものにできる。

インフラ投資家は、革新的なエンゲージメントや資金調達モデルの開発に取り組む以外にも、景気回復に貢献するために検討できることがある。例えば、経済発展に寄与し、公共セクターのニーズに対応できる投資機会を見極める必要があるだろう。インフラ投資家は、経済回復を支援するプロジェクトの設計やフィージビリティスタディへの投資を通じて開発の初期段階におけるリスクを負い、また、限定的な投資が最終的には公共財となりうることを理解したうえで、投資家サイドからプロポーザルを行うことも可能だ。さらには、公共セクターの各団体との協働によってプロジェクトに対する支持を高め、民間投資がもたらす価値を確立し、技術プロバイダー、労働組合、地域社会、市民らと建設的な協力関係を築くことができる。


世界各国の政府が深刻な景気後退の危機に直面するなか、単なるインフラ投資ではなく入念な検討のうえで実行される投資は、雇用の創出やGDP成長にも寄与する。

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