オートメーションという言葉は、ロボットに仕事を奪われるようなイメージを持たれがちだが、実際はもっと特別な意味合いを持つ。例えば建設業では、オートメーションは雇用機会の減少よりも生産性の向上をもたらす可能性の方が高い。事実、オートメーションは、インフラの新設・アップグレードや住宅の改善・低価格化といった世界的なニーズと並んで、建設業界の方向性の一端を担う。重要なのは、従業員の現在および将来の新しいスキル開発も含めて、推移を予測し、備えることが重要となる。
大局的に、建設業にとってオートメーションは何を意味するのか
過去何年もの間、建設業の生産性の向上度合いは緩やかもいいところだった1。例えば、米国では1947年から2010年まで、建設業の生産性はほとんど変化していない。一方、オートメーションが進んでいる製造業では生産性が8倍以上、農業では16倍以上も向上している2。つまり、建設業におけるオートメーションの主なメリットのひとつは、生産性が飛躍的に改善する可能性なのである。
建設業におけるオートメーションの機会は、主に3つある。第一の機会は、レンガを積むロボットや道路を舗装する機械など、従来は肉体労働であった現場作業のオートメーションだ。第二の機会は、ファサードなどの部品の3Dプリンティングなど、工場でのモジュール建築(というより生産)のオートメーションである。第三の機会は、デジタル化とそれに伴う設計・計画・管理のオートメーションや、それによる現場の大幅な効率化である。例えば、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)は、基本的にプランナーとゼネコンの設計を統合し、現場に入る前に問題を特定することで計画プロセスを効率化できる。しかし、それ以上に重要なのは、現場の施工を効率化し、プロジェクトチームのミスをなくし、作業員をより効果的に調整可能になるということだ。
オートメーションは、ビルダーの業務にどのように影響するのだろうか
オフサイトでのモジュール建築への大幅なシフトは、建設労働者に大きな影響を与える可能性があるが、完全なシフトには数十年を要すると思われる。個々の構成部品(モジュール)を工場で生産すれば、当然ながら現場で作業するより多くの機械を使用できる。Katerra社など一部の企業は、すでにそうしたモジュール製造を行っている。それらの工場ではまだ多くのが手作業で行われているが、やがて規模が大きくなるにつれてプロセスのオートメーションが進んでいくだろう。我々は、2030年までに米国とヨーロッパの新築工事の約15〜20%がモジュール式になると推測している。このようにモジュール建築はシェアを拡大し市場も広がりつつあるが、時間のかかるプロセスであり、今後しばらくはまだ多くの作業が現場で行われ、比較的予測が難しい状況が続くだろう。
今後も現場で行われる行程に関しては、作業員を解雇して最新のロボットを導入し、ロボットがすべての作業を代行するということは、まずありえない。各役割における個別の活動を機械に代行してもらう、という方が正しいだろう。つまり、現場作業員は機械と協働する、あるいはハイブリッドな役割を担うことを学ぶ必要があるだろう。例えば、平均的な建設作業員でも、現場の見回りの代わりにタブレットで建物の図面にアクセスしたり、ドローンを操作することが期待される。
それでは将来、雇用は十分に確保されるのだろうか
オートメーションの機会は産業全体に広がっているが、製造業のような反復作業が多い産業に比べると、建設業の雇用はさほど影響は受けないと思われる。最もオートメーションに移行しやすいのは、予測可能な環境下における物理的な反復作業だ。しかし建設業の場合、モジュール建設技術を使う場合を除いては、予測不可能なことがほとんどだ。ここでの予測不可能性には、2つの要素が含まれる。つまり、単に駒を動かすだけでなく、それぞれの建築現場やプロジェクトを顧客の要望、建築デザイン、地理的またはサイト固有の要件に合わせて調整しなくてはならない、ということだ。
我々は、もし個々の国々がグローバルとのインフラ格差を解消し、安価な住宅供給を促進しようとすれば、建設業の雇用は減少どころか増加し、2030年までに最大で2億人の新たな雇用が生まれると予想している。3また、建設プロセスのオートメーションが進めば、インフラや建築をより短納期で提供することができる。もちろん、人員を削減する必要もない。さらに、アジアやアフリカの一部では、インフラや住宅へのニーズが非常に高い。つまり、建築工事と労働者の需要は、今後も継続するということだ。
もちろん、世界経済の成長が鈍化しインフラ投資への需要が減少すれば、こうした成長余地が頭打ちになる可能性もある。ただ、概して実施すべき工事案件は十分にあり、今後もその状況は変わらないと我々は見ている。
オートメーションは建設作業員の賃金にどう影響するだろうか。
誰もが十分な仕事をするなかで、賃金のばらつきが大きくなることが予想される。長期的には、オートメーションによって生産性が向上するなかで、高度な技術を持つ作業員ほど賃金が上昇する可能性がある。少なくともオートメーションへの移行期間中(10年以上かかる可能性もある)は、高度なスキルを持つ者はよりニーズがあるため高い賃金を要求できる一方で、予測可能な反復作業に従事する者は、ニーズが低下するため賃金の伸びが鈍化する可能性がある。
建設工事の仕事は、少なくとも米国では中産階級の賃金水準に該当し、オートメーションが急速に進むとも考えにくい。その意味では、中産階級の空洞化が進むと見られるなか、建設業はその穴を埋めることができるかもしれない。
今後の作業員のスキルのシフトに、業界はどう対応すべきだろうか。
すべての産業がそうであるように、建設業でも、オートメーションが進めばスキルのミスマッチが生じるだろう。仮にレンガを積むという肉体労働はロボットが代行するとしても、作業員には重機の運転や操作など、それなりの身体的スキルが依然として求められる。しかし、現場作業には技術的により高度なスキルも必要だ。
では、そのスキルはどこで習得できるだろうか。建設業のオートメーションに適応するには、公共部門、民間セクター、業界団体などが労働者のスキルアップを支援する取り組みが必要になるだろう。
歴史的にみて、公的部門は基本教育や技能の供給において主要な役割を担ってきたし、今後もそれは変わらないだろう。ただし、カリキュラムは現在と将来のニーズ、特に技術的・社会的情緒的スキルへのニーズを満たすように変えていかなくてはならない。また、何十年も前に正規の学校教育を終了した労働者の再教育やスキルアップの必要性も高まっており、生涯学習の機会を提供する教育システムの発展も必要である。
一方、民間セクターは労働者の専門的スキルのニーズに対応する責任を追っている。よって、セクター全体で多くの経営者は民間が果たすべき重要な役割を認識している。4ところが、建設業は伝統的に、他産業より従業員のスキルアップに対する投資が少ない。下請企業や派遣労働者の割合が高いことも、その一因となっている。しかし、どの企業も同じようなスキルシフトに直面しているため、今後は市場で有能な人材を見つけることがますます難しくなるだろう。そのためニーズを先取りし、スキル開発の機会を提供し、現在の従業員に投資して将来の案件に備えていかなくてはならない。
最後に、業界で連携による取り組みも盛んに行なわれている。例を挙げると、ドイツのミュンヘン工科大学では、業界関係者によるプラットフォームを組織し、ブートキャンプ、ハッカソン、イマージョン・デイ、ピアエクスチェンジなどを開催し、参加者にデジタルコンストラクション研修を提供している。また英国では、政府の外郭団体であるHomes Englandがモジュール建築に関する研究プログラムを立ち上げ、数十ヵ所のサイトをモニターし報告する。その目的は、各プロジェクトを従来の建設アプローチと比較することで新興技術に関するデータを業界に提供することだ5。
建設業におけるオートメーションの展望は明るい。ニーズの変化に対応可能な人材を育成するために、業界全体において取り組むべき課題はあるものの、全体的には、生産性の向上、賃金の上昇、インフラや不動産に対する需要の高まりに対応してゆけるだろう。
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