エキスパートの洞察:
現在の労働力とは異なる、未来の労働力に
不可欠な3つの資質とは

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タム・グウェン Bechtel社グローバルサステナビリティ統括責任者、デビット・ウィルソン Bechtel社CIO

人工知能(AI)をはじめとするテクノロジーの導入が進み、これからのエンジニアリング、調達、建設の現場は、よりスリムで環境に優しく、スマートで、アジャイルな環境になるだろう。これからの人材は、次の3つの本質的な資質を備えている。

適応性。従業員は変化を受容したり、よりよい方法をいち早く取り入れることができ、また環境フットプリントを抑えつつより多くの成果を出すことができる。近年、業界全体でドローンの導入率が大幅に伸びている。1今後は、その他の新しい技術もいち早く導入していく必要がある。

デジタル熟練度。建設作業員は、新たなデジタルワークフローやソリューションの導入、理解、トラブルシューティング、開発を行うことができ、またデータをより安全かつ効率的、有効に管理できるようになるだろう。これからは、紙の図面や指示書の山を分類するような業務はなくなる。作業員はAIを搭載したウェアラブル端末やスマートデバイス、ワークステーションを用いて、作業ナビゲーションや指示書の作成を行うようになるだろう。

機械への精通。これからの作業員は、ボット、ロボット、自律走行車、機械制御、神経インターフェースなどを活用して業務を補完する能力を備えるようになる。データ処理、材料運搬、鉄筋結束などの反復作業は、コボット(協働ロボット)が代行する。これらのコボットは、作業の指示・監督をする作業員をサポートする。こうしたスキルを持つ労働力があれば、より少ない物的資源・天然資源から、より安全で高品質な製品をより迅速に提供することができる。


ロミリー・マデュー Infrastructure Australia社CEO

オーストラリアは、人口動態や消費者ニーズの変化、急速な技術発展が進み、かつてないほど不確実な時代を迎えている。こうしたトレンドによって、未来の労働力は次の3つの顕著な特徴を持つようになるだろう。

女性の割合の増加。Australian Infrastructure Audit 2019によると、オーストラリアの労働参加率は高く安定している2。しかし、女性の参加率は64%で男性の75%よりも低く、これは他のいくつかの国々よりも低い水準である。雇用者数では、建設業がオーストラリア国内第3位の産業であるが、女性の進出率は全産業の中で最も低い水準にある。

ただし、労働人口全体では女性の割合は増加しており、この増加傾向は今後も続くと予想される。こうしたトレンドは、現在の建設業界の労働力不足や技能不足の解消にもつながる可能性がある。

シニアの労働力や介護職の増加。2019年の監査では、オーストラリア人の寿命が延び、より長く働いていることが明らかになった。55歳以上の労働者数は大幅に増加しており、今後も増加すると予想される。2042年には、オーストラリアの85歳以上人口は2倍に増加すると予想され、社会サービスやインフラ、特に医療や高齢者介護の分野を圧迫する可能性がある。

従来とは異なる就労形態の拡大。急速な技術革新や消費者ニーズの変化は、既存の市場に破壊的な影響をもたらしている。ライドシェアやスキルシェアなど、シェアリング市場における過去10年間の需要の増加は、成長中の都市圏の外縁部に質の高い交通手段を提供するなど、将来的なインフラ面の課題の解決に役立つ。現在、オーストラリアの労働人口のうち、自営の請負業者が占める割合は約12%だが、この労働区分の成長に伴いこの割合は今後も増加すると予想される。


マイケル・デラ・ロッカ マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー

建設エコシステム全体でも、将来の労働力はよりデジタルリテラシーが高く、多様で、分散的になるだろう

デジタルリテラシー。建設業は、何世代もかけてようやく低い生産性から脱却し、デジタル変革のスタート地点に立った。このセクターではバーチャルリアリティツール、AIを使った設計アルゴリズム、建設機械の遠隔操作、デジタルな現場保全ツールなど、さまざまな技術を駆使して建築工事のあり方を変革しようとしている。これからの労働力は、こうしたデジタルアプリケーションの知識や訓練経験を備えているだろう。その中でも特に有能な人材は、バリューチェーン全体でこうしたデジタル技術を活用している雇用主を希望するだろう。

多様性。テクノロジーの導入によって、従来とは大きく異なる建設環境の下で能力を発揮できる多様な人材に門戸が開かれることになる。将来、若い作業員がiPadを使って、何百マイルも離れた建設現場のブルドーザーを操作するのを当たり前のように目にするかもしれない、と想像してみてほしい。より革新的な例では、24時間365日体制で先端技術を駆使し、製造環境下で商業ビルのモジュール建築を行うようになる。

後者はすでに行われているが、まだ規模は大きくない。建設業界がテクノロジーを導入・活用することで、従来のようにヘルメットをかぶった作業員による肉体労働的な役割は減り、より多様な労働者が活躍する場が生まれるだろう。建設エコシステムの発展に伴い、彼らはさまざまなスキルを適用し、新しいプラットフォームやツールを活用し、より柔軟なスケジュールで働くようになる。

分散化。これからの時代、設計やプロジェクト管理、サプライチェーンは、世界各地に存在するプラクティショナーが、デジタル技術を駆使して管理、実行するようになる。もちろん、施工現場での活動のニーズは常にある。しかし、仮想現実を利用してさまざまな設計・施工シナリオをテストしたる、デジタルツインを作成して進捗状況を把握したり、プロジェクトコンポーネントのモジュール建築を導入したり、またバーチャルプロジェクト管理ツールを用いてチーム会議ができれば、大所帯のチームが現場から現場へと移動する必要性は低くなる。

デジタル化、多様化、分散化の相乗効果により、建設業界では労働力のあり方が加速的に変化している。これからの若い世代は、建設業に対し、ハイテクでペースが速く、性別に関係なく、収入がよく、優秀であれば世界のどこからでも働ける職業、というイメージを持つようになるだろう。


プラカシ・パーブー マッキンゼー・アンド・カンパニー 準パートナー

我々の経験から、大規模資本のプロジェクトチームや現場作業員の特性、マインドセット、行動には、プロジェクトの成功を予期させる反復的なパターンがあると考えている。未来の人材には、3つの重要な能力が求められる。また、今日のプロジェクトチームの選考・採用は、この3つの特性すべてを満たすかで行なわれる可能性がある。

よい時も悪い時も協力する。優れたチームはすべてのレベル、すべての利害関係者間において、課題解決のために協調的なアプローチをとっている。そこでは、各機能のステークホルダーを招集して課題を解決し、すべての関係者が互いにベストを尽くせるような環境を醸成する。彼らは責任のなすり合いに終始するのではなく、チームとして問題を客観的に評価すること、業績不振の場合の説明責任についてはあらかじめ決められたルールを適用することで合意している。優れたチームは、プロジェクトが困難に直面したときに密接に協働することで、その真価を発揮する。

データを活用して問題をリアルタイムに解決する。効率性に優れたチームは、まずパターンを把握するなどして、問題が発生する場所を予測することから始めるが、特に問題解決に向けてデータを活用している。例えば、グリーンフィールド鉱山で建設を行なうチームでは、アドバンストアナリティクスを用いてタスクの遅延リスクを早期に警告した。プロジェクト環境の制約や複雑性に根ざした新しい洞察を提供するデータサイエンティストやデータサイエンストランスレータは、プロジェクトチームを支える存在としていっそう重要性が高まっている。

新しい技術を導入する。E&Cは独自のデジタルディスラプションに取り組んでいる。このシフトによる長期的な影響はまだ不明だが、新しい技術に適応し、受容できる人材が不可欠であることは明らかだ。ある非熟練作業者のチームは、スマートフォンのアプリを活用することで生産性が100%以上向上した。また、エンジニアが抵抗感なくAIのアシスタントと共同で設計できるようにするための取り組みも行われている。どんなアプローチであれ、日々の業務に新しい技術を適用できる能力は、これからの労働力にとって不可欠である。


本記事は、あらゆる地域やバリューチェーンのインフラストラクチャーやキャピタルプロジェクトの各リーダーが持つさまざまな視点に焦点を当てている。マッキンゼー・アンド・カンパニーは、本記事に寄稿する団体やその見解を支持するものではない。

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