メタバースの進化はどこに向かっていると思うか?
メタバースについてはCOVID-19以前のテクノロジーの方向性の延長線上にあると考えている。これは例えばモバイルの拡大傾向や、実生活におけるデジタルとリアルのつながりの増加などである。
それは一種のパラレルワールドだ。私たちにはインスタグラムがある。Eメールを使っている。メッセージングもある。そして、現実世界の友人がいるし、現実世界の活動に参加している。時に、この2つが重なることがある。しかし、メタバースの現実世界における将来像について考えると、こうした重なりがより深い融合になる。現実世界の全てのものがデジタルに拡張されるのだ。
拡張現実(AR)が目指している姿は、私たちが世界を知覚する際にARを使っていることを気づかなくなるような状態だと考えている。それはまるで「感覚の延長」のようなものであり、私たちが行う全てのことに追加の情報を提供してくれるレイヤーとして認識され、世界をより豊かにしてくれる。そして、私たちは、デジタルのインターフェースを介して現実世界の情報を見ることができるようになり、人間としての能力も高まることとなる。そして、それはリアルに何かを起こすことにつながる。
それを実現するために求められる主要な技術革新は何か?
今後求められるものはかなりの数ある。
私たちは、デジタルとリアルとのつながりがどこでも可能で、摩擦のないものにするために重要な要素であるマッピングに取り組んでいる。人間として、私たちは世界のどこにでも行き、道に迷うことなくA地点からB地点に移動できる能力を持っている。
それはデバイスには当てはまらない。ロボットを世界中のどこにでも置いて、家までの道のりを辿ることは期待できない。そのためのツールが存在しないからだ。そのようなツールは開発可能だが、そのためにはデジタルマップを作成する必要がある。その際、世界は歩行者が動いて見ているレベルの細かさで観察されることになるため、非常に複雑になる。人が何を見ているのかを正確に知るには、その人がどこにいて、頭、眼鏡、またはカメラがどこを向いているかを正確に知る必要がある。つまり処理するデータは膨大になる。
もう一つの課題は、終日着用することができるメガネを誰もが使えるようにすることだ。光学系と計算能力が重大な障壁となる。今のところ、必要とされる計算能力をメガネに詰め込むことはできない。ベルトに装着するデバイスやケーブルが必要で、電源側にもいくつかの制約がある。光学系では物理的な制約と製造工程上の課題に対処が必要だ。また、モバイルのネットワークはまだ十分に堅牢ではなく、今後も長い間十分となることはないだろう。
オープンなメタバースについてどう思うか?
インターネットは「オープン」から始まった。つまり、ユーザーエクスペリエンスとデータに対して中央管理をしないという、最初から極めて分散化されたコンセプトだった。しかし、それが特定の方向に進化しはじめ、行き過ぎてしまったため、人々がその限界を認識するようになった。私の感覚ではよりオープンなモデルへの回帰が始まってお
り、人々は自分のデータと情報に対してより強い統治権とコントロールを獲得できるようになる。
私にとって、相互運用性は、オープン性に関連しているが、必ずしも同じものでは無く、これが勝利の戦略だと考える。私はいわゆる堅いクローズドなプラットフォームが未来のあるべき姿では無いと思っているし、そうならない可能性がますます高まっていると思っている。例えばNianticでは最近、当社のコンピュータービジョンとマッピング技術をWebアプリケーションスタックに組み込んだWebAR企業の8th Wallを買収しており、開発者は誰でもARアプリケーションを構築できる。
また、現在直面しているデータトラッキングの課題の多くは、Web2.0のログイン認証への依存に関連していると思う。これは広告とデータの集中化への入り口のようなものだ。しかし、このような仕組みにする必要はない。Web3が本当に得意とすることの1つは自己主権的なアイデンティティーである。中央集権化されたゲートキーパーに依存しておらず、やり取りする相手は誰でも、やり取りしているのがあなただと分かる。
最終的には、これは何がプライベートで何がそうでないかについての人間の期待に帰着する。私が人や会社と関わる際には、私が彼らと何をしたか相手も理解していると期待している。しかし、私が何を行っているかを第三者が知っているとは思わず、またそのようなことは望んでいない。
より広く普及するには何が必要か?
人々がお金を稼ぐためのより民主的な方法だ。メタバースに関心を持ち、初期の開発を行っている開発者が増えており、広告主やメディアから彼らに資金が流れ始めている。ゲームは人々がお金を稼げる場所だと思うが、そのエコシステムはより成熟して成長する必要がある。
私たちが取り組んでいることは、実世界でのメタバースのアプリケーションとの出会いである。クールなものが構築できたら、多くのオーディエンスを引き付ける方法が必要となる。メタバースが現在のApp Storeのモデルを踏襲した場合、ユーザーはアプリをダウンロードして多くの「アクセス許可」をクリックするという面倒な作業を行う必要があるため、何かを試すだけでも相当な面倒を強いられる。
ウェブの黎明期を思い返してみると、一度に20もの異なるサイトをチェックしながらネットサーフィンをしていた。それらは何時間も注意を向け続けたり、何年も忠実にやり続けたりするようなものではなかったが、少なくとも見つけて試すことは非常に簡単だった。そのおかげで、エコシステム全体がいわば自らを引き上げる形で成長を遂げることができた。同様に、現実世界のARや現実世界のメタバースにも、そのように簡単に見つけて試せることが必要なのではないかと考えている。